「三十の反撃」おすすめの本

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おすすめの本の紹介が続きますがよかったらどうぞ。
図書館に予約していた本を借りに行ったところ
珍しく夫が「こんなんあるよ」と教えてくれた本。
夫はタイトルに惹かれて中はよくわからずすすめてくれたようですが、
面白くて予約した本より先にどんどん読んでしまいました。

 

30歳になる有名企業の関連会社でインターン非正規職員として働いている女性が主人公。はじめタイトルは「普通の人」だったそうですが数年たって「一九八八年生まれ」というタイトルで韓国の済州4・3平和文学賞を受賞しその後「三十の反撃」で出版されたそうです。

2つめのタイトルにあるように主人公は1988年ソウルオリンピックの年生まれ。名前はソウルオリンピックの年に大韓民国で生まれた女の子の一番多い名前キム・ジヘ。同じ名前の人がクラスに必ずいた、そんなどこにでもいるひたすら大企業への就職を目指す若者のお話。
日本も韓国も一緒だなと思いました。
大企業を目指して努力して努力してそれでも落ち続けて万が一就職できてもその先に何があるのだろう・・・

 

あとがきにある作者の言葉の中に
「執筆しながら、ときどきカフェの中の若者たちに、ちらりと目をやった。それぞれ無表情で座って参考書を眺め、勉強会を作って模擬面接をしている疲れた顔。現実になるかどうかわからない目標を心に秘め、とにかく頑張っているという点で、彼らと私は同じ仲間だった。私は、自分自身とあなたたちに聞きたかった。どんな大人になりたいのかと。今という時間をどのように記憶し、刻んでいくつもりなのかと。反撃がうまくいかないとしても、心の中にこころざしの一つくらいは持って生きるべきではないのかと。そんな問いや思いが集まって、この作品が生まれたのだと思う。」

ずいぶん昔のことになるけど私も会社に勤めていた頃、転職を考えていた頃、転職先でいつまでここにいるのだろうと考えていた頃、大阪や神戸の公園で一人ぼーっとしていた時間を思い出したりしました。

 

訳者のあとがきの中に済州4・3平和文学賞の審査評の一部が紹介されています。

「八八万ウォン世代の主人公が虚偽の世の中を変えようともがく生きざまが共感を呼ぶ。小さなチェ・ゲバラたちから希望をもらえる。」

「韓国社会にはびこるニセモノたちや、弱者を巧妙に搾取する構造的矛盾に抵抗する若者たち。彼らの抵抗は悲壮でも英雄的でもなく、ゲームのように軽快に行われる。そんな抵抗の行動を経験しながら、自分の小さな従順な自我から抜け出し、主体的な自我を取り戻していく主人公。ウイットに溢れる、清々しくて愉快な小説だ。」

日本社会も全く同じではないでしょうか。ニセモノだらけ。
何が本当で何が嘘かわからなくなっている私たちの生きている現実。
みんながヒーローにならなくていいし、みんながなにかすごいことを成し遂げなくてもいいのだけれど、それぞれがニセモノを見抜く術を身につけることはとても重要なことなのではないのかなと最近考えています。
都会の公園で一人でぼーっとしていた頃、ニセモノを見分けられていたかと考えると「できていた!」と即答できません。ただ、世間の風潮に流されてこのままの方向に努力していくことが自分にとってのホンモノの答えではないのではないかと思って考えていた時期だったのだと思うのです。

 

このブログは「不登校」で悩んでいる方も少し読んでくださってるかなと思うのですが、息子の映画「不登校のススメ」の上映会の時にも何度かお話している「不登校って誰にでも訪れるもの」となにか共通しているものも感じました。
不登校で悩んでいる時というのは、何かしらニセモノを感じていて自分にとってのホンモノを探している時期なのではないでしょうか。そばで見ている者にとっては「他の人たちよりどんどん遅れてしまう。将来大丈夫なんだろうか。」とやきもきする時間かもしれませんが、大人になってからそういう時期を迎える場合もありますし、またそんな時期を無理やりねじ伏せてしまったために心身ともに不調を感じてしまう場合もあるのではないかと思います。

年々ニセモノがはびこるこんな世の中なのであせって事を運ばずじっくりとホンモノを見極める時間を作ってあげることがむしろこれからは大切なのではないかなとも思いました。息子を見ていると本当にそんな気がします。
小学校1年生の時のはじめの担任の先生の
「えんぴつの握り方とかお箸の持ち方とかぐらいはちゃんと出来ていないとこの先困ると心配です。」
など言われていたことをふと思い出しました。今の息子を見たら先生は驚かれるのではないかなと思います。えんぴつの握り方は相変わらずかも知れませんが・・・
話がすっかりそれてしまいましたが、若い方はもちろんどの年代の方にもおすすめしたい本です。今年の夏、日本語訳が刊行されたところのようです。ぜひご一読ください!

 

「間違っていることを間違っていると言うだけでも少しは世の中が変わる」

主人公に多大な影響を与える登場人物ギュオクの物語の中の言葉。
私もこの言葉を忘れないように生きていきたいと思います。